身元保証書とは?有効に運用するポイントを解説

労働基準法等

入社手続きで提出してもらうことが多い身元保証書ですが、その必要性や効果はご存じでしょうか。従業員入社時の定型業務として特に意識せずに提出を受けている場合には、2020年の民法改正の影響もあるため、様式の変更等検討が必要な可能性があります。

1.身元保証契約とは

身元保証契約とは、会社と身元保証人が締結する契約で「労働者の行為によって会社が受けた損害を、身元保証人が労働者と連帯して賠償することを約束する契約」をいいます。



2.身元保証契約の効果

身元保証契約の効果は上述「1.身元保証契約とは」のとおりですが、その他にも効果が期待できます。

身元保証契約の効果
  • 従業員の行為によって会社が受けた損害を、身元保証人に連帯して賠償させる
  • 従業員が不正を行うのを抑止する
  • 緊急時の連絡先の確保

 

2-(1) 従業員の行為によって会社が受けた損害を、身元保証人に連帯して賠償させる

従業員が横領等の不正や就業規則違反をおこない会社に損害を与えたときに、身元保証人に従業員と連帯してその損害を賠償させます。ただし生じた損害全額を賠償する義務を負うわけではなく、労使双方の過失の程度や身元保証人が保証するに至った経緯その他を考慮して賠償額が決まります。なお、後述「4-(2)極度額を記載する」のとおり、賠償額にはあらかじめ身元保証契約で上限額が決められています。

2-(2) 従業員が不正を行うのを抑止する

身元保証には、身元保証人が従業員を「会社の勤務に問題がない人物」として人物保証をするという意味合いもあります。そのため従業員は、問題を起こすと保証人に迷惑がかかると考えることが多く、結果として不正の抑止効果があります。

2-(3) 緊急時の連絡先の確保

従業員が失踪したとき等従業員本人と直接連絡がとれない場合には、身元保証人を介して情報収集等をする場合があります。また、近年増加しているメンタル不調の従業員への対応では、従業員の病状や自宅での様子等を従業員に近しい人物である身元保証人にヒアリングし、ともに職場復帰に向けてサポートをすることもあります。



3.身元保証人の人選

身元保証人には、一般的には親・兄弟姉妹等がなる場合が多いです。
会社としては、上述の「2-(2)従業員が不正を行うのを抑止する」や「2-(3)緊急時の連絡先の確保」の効果を重視して、親など近しい肉親を認めていると考えられます。
この場合にも、損害賠償という身元保証本来の効果を期待するならば、保証人を2名として、親(父、母のどちらか)1名と、兄弟姉妹又は友人等で1名とすることをお勧めします。特に親が高齢の場合や資産がない場合には、損害賠償に実効性を持たせるために有効です。



4.身元保証書作成のポイント

身元保証書作成のポイントは以下のとおりです。

身元保証書作成のポイント
  • 身元保証の有効期間を明記する
  • 極度額を記載する

 

4-(1)身元保証の有効期間を明記する

身元保証契約の有効期間は、期間の定めのない場合は作成日より3年です。
期間の定めのある場合は最大で作成日より5年であり、これを超える期間を定めることはできません。(身元保証ニ関スル法律1条・2条)
そのため、身元保証書を作成するときは、有効期間を5年として作成することをお勧めします。

4-(2)極度額を記載する

極度額とは、「身元保証人が保証しなければならない債務の合計額」をいいます。
2020年の民法改正で「個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じない(民法第465条の2)」とされたため、身元保証契約においても極度額を契約書に明記する必要があります。
金額自体には法令の制限はないため、会社と身元保証人双方で合意した金額を契約書に記載することとなります。金額の記載例としては、「〇〇万円」と具体的に記載するか、「××時点の基本給の△ヶ月分」等が考えられます。
極度額の設定については、高額にし過ぎないほうが身元保証人が引き受けやすいと考えますが、低額過ぎると実際に会社に損害が発生した際の用を為さないため、バランスを考える必要があります。



5.身元保証契約の運用のポイント

身元保証書を入社時等に確実に入手し、有用な運用をおこなうには、以下に留意する必要があります。

運用のポイント
  • 就業規則への身元保証書の提出義務の明記
  • 身元保証人への通知義務
  • 身元保証書の再取得のタイミング

 

5-(1)就業規則への身元保証書の提出義務の明記

身元保証契約書を確実に入手するためには、例えば就業規則に「入社時の提出書類」として記載する方法があります。その際には、内容に変更がある場合(身元保証人の死亡等)や身元保証書の有効期間経過後等、会社が必要とする場合に再度提出義務があることを明記することをお勧めします。
また、雇用契約書においても、提出しない場合には採用取消の可能性があることを記載するのも有用です。

5-(2)身元保証人への通知義務

身元保証契約を、損害賠償目的で有効に機能させるためには、以下の場合に会社から身元保証人への通知をする義務があります(身元保証ニ関スル法律3条)

  • 従業員が業務上不適任又は不誠実であるため、身元保証人の責任を問うおそれがあるとき
  • 従業員の職務や勤務地に変更があり、身元保証人の責任が重くなる場合や監督困難となる場合

身元保証人は、上述の会社からの通知を受け取った場合や自ら同様の事実を把握した場合には、将来に向かって契約を解除することができます(身元保証ニ関スル法律4条)。

5-(3)身元保証書の再取得のタイミング

身元保証契約は裁判例をみると自動更新ができないと考えられるため、身元保証契約を損害賠償目的で有効に機能させるには、契約期間が終了するタイミング(契約書の有効期間終了時、契約内容変更により新たに雇用契約を締結した時等)で再取得する必要があります。
しかし実際には、従業員に契約書の有効期間終了の都度身元保証書の提出を求めることは、従業員との信頼関係に響くと考えて入社時等に取得したきり、再取得をしていないケースも多いのではないでしょうか。
そのような場合であっても、従業員の要職への就任や契約変更・更新のタイミングでは再取得しておいたほうが良いと考えます。責任の加重や契約内容の変更等があれば、従業員の納得感も得られやすく、また会社側のリスクも高まるタイミングであるためより必要性は高いといえます。



6.さいごに

身元保証契約を効果的かつ現実的に運用していくためには、会社の採る考え方をベースに、契約書の内容や就業規則等の記載事項を検討し、契約書の取得タイミング等を決定していく必要があります。また、身元保証契約と同時にとることが多い機密保持契約等の取得についてもあわせて検討が必要です。従業員から提出を受ける資料は、タイミングをそろえて可能な限り一時に取得するような運用をおこない、従業員の負担を減らすことで良好な信頼関係を築くようにしましょう。